Dark night of the soul Secret path to the Light

秋の夜の詩 2編
2013-10-24 Thu 16:01

秋の夜空

これはまあ、おにぎはしい、
みんなてんでなことういふ
それでもつれぬみやびさよ
いづれ揃つて夫人たち。
    下界は秋の夜といふに
上天界のにぎはしさ。

すべすべしている床の上、
金のカンテラ点いてゐる。
小さな頭、長い裳裾、
椅子はひとつもないのです。
     下界は秋の夜といふに
上天界のあかるさよ。

ほんのりあかるい上天界
逞き昔の影祭、
しづかなしづかな賑はしさ
上天界は夜の宴。
    私は下界で見てゐたが、
知らないあひだに退散した。
           

中原中也(1907~37)「山羊の歌」より



中原中也を、ふと買いたくなった理由はさておいて、
あらためて読んでみても、これといって、なにも感じないなあ。

中原中也のどこが好きなのか?

この詩集、積ん読というより、飾っ読になりつつあります。

「秋の夜空」という詩も、この人らしい・・・
なんだか、いましがた勉強した仏文学から、想像してみた、
上流社会の雰囲気を、あまり関心もなさそうな空の上に
ぽんと置いてみただけのような、おかしさがあります。

それでも、「ほんのりあかるい上天界」を、あんぐり見上げながら、
呼ばれもせず、招かれもせず、膨れ面でひとり去ってゆく哀愁は、
天地の隔たる、秋の夜ならでは、感傷でしょうか。

秋の夜の星は、遠いです。
遠くて、小さいけれど、親しげに瞬いて、
澄んだ「しづかな」、星月夜が、くり広げられます。

明るい星は、「南のひとつ星」が、ぽつんとあるだけ、
夏の銀河や、冬の星座のような、豪華さはないけれど、
秋野の千草のように、ひそやかで涼やかな、星の風情が、
地をおおう、虫のすだきと交わって、万の想いを募らせます。
だから秋は、身近なお月様や流れ星が、主役なのでしょう。

すでに銀河は西に傾き、織女と牽牛も、姿を消してゆく・・・
白鳥の十字架から零れる、天の川の細い流れは、北天の夜をわたり、
カシオペア座、ペルセウス座、五車の星を掠めながら、
やがて東にあらわれたオリオン座の、赤い肩に落ちてゆく・・・
「銀河鉄道」とは、ちょうど反対へ向かう路線ですね。

秋の星座は、ギリシャ神話の冒険譚でも有名です。

夜空のまんなかを、翼を持つ天馬が翔けて行く。
天頂に幕を張ったような四辺形は、天馬の胴体、ペガサス座。
ペガサスに乗る英雄は、ゼウスの息子、ペルセウス。
ペルセウスが救って妻にした、エチオピアの王女、アンドロメダ。
アンドロメダの両親である、ケフェウス王と、カシオペア王妃。
アンドロメダを襲い、ペルセウスが倒した、くじらの海獣までが、
それぞれ星座となって、全天にずらりと配され、
淡い星影にも、豪華な神話の絵巻を見せてくれます。

なかでも、アンドロメダ座を名高くしているのは、
この星座に位置する、「アンドロメダ銀河」の存在でしょう。

andromeda_gendler_big1.jpg


かつては、「アンドロメダ大星雲」とも呼ばれ、
その名で記憶している世代も、おられるかと思いますが、
現在では、「アンドロメダ銀河」と呼ばれます。
われわれの地球を含む銀河系は、「天の川銀河」です。

地球からの距離は、約230万光年。
肉眼で見える、もっとも遠い天体。

視力の弱い私には、コンタクトを用いても見えませんが、
双眼鏡でなら、だれにでも充分に観望できます。
周囲の星とは、明らかに違う、白くて柔らかい、
繭のような、楕円の広がりが、ぼんやりと望めます。

アンドロメダ座は、天頂をわたる星座なので、
真上付近を、じっと見上げているのは、首が辛いですけど・・・
ペガサス座の四辺形を、目印にすると、辿ってゆけます。

瞳に映る・・・230万年の時空を超えて、届いた光。
くしゃみとか・・・しませんか?

人は、「現在」を見ることはできない・・・のですね。
目の前で起こる事象さえ、現在の一瞬前の、過去の光。
星のかなたへ逃亡すれば、地球の過去に、出会います。
「人は、忘れます。星は、憶えています」。

アンドロメダ銀河と、天の川銀河とは、ひとむかし前には、
大きさや形状もよく似た、双子の銀河のように、語られていましたが、
現在では、アンドロメダ銀河のほうが、はるかに巨きく、
直径は22~26万光年、恒星の数はおよそ1兆個にのぼり、
バルジ(中心のふくらみ)には、巨大なブラックホールがふたつ、
連星系を成しているらしいことが、分かってきているそうです。


m31core_gendler_big1.jpg



これに対して、われらが天の川銀河は、直径が約8~10万光年、  
恒星の数は、およそ2000~4000億個くらいと、推定されています。
形状も、アンドロメダ銀河のような、「渦巻き銀河」と考えられていましたが、
最近では、バルジからのびる棒構造を持つ、「棒渦巻き銀河」に分類されます。
地球は、天の川銀河を構成する腕のひとつ、オリオン腕の外れにあって、
銀河中心からは、およそ2万8千光年も離れている、地方の星です。

太陽系の黄道面は、銀河面に対して、約60度傾いています。
海の果てや、山の向こうから、豪快に立ち上り、空を横切る、
天の川が見られるのは、そのためで、もし両方が平行だとしたら、
天の川は、地平線付近に横たわる姿に、見えるのでしょうね。

話がやや、大仰になってきましたが・・・・・

ところで、異郷でふり仰ぐ星々には、
胸をしめつけられる、郷愁があふれます。
秋ともなれば、また募るばかり・・・

望郷の想いを詠った、隣国の詩をひとつ。



星に思い巡らす夜


季節が過ぎ去ってゆく空には
秋がいっぱいです。

わたしは、なにごとも心配せずに
秋のなかの星たちを、みな数えられそうです。

胸のなかに、一つ二つ刻まれる星たちを
いまだぜんぶ、数え切れないのは、
朝のおとずれが、あまりにも早いからです。
明日の夜が、わたしにも、残っているからです。
まだ青春が、わたしのなかに、留まってくれるからでしょう。

星ひとつに、追憶と
星ひとつに、愛と      
星ひとつに、寂しさと、
星ひとつに、憧れと、
星ひとつに、詩と、
星ひとつに母、母

母よ、わたしは、ひとつの星に、
美しい言葉を、ひとつずつ、呼びかけてみます。
小学校のときに、机の一緒だった友達の名前と、
 珮、鏡、玉、
このような、異国の少女たちの名前と
すでに赤ちゃんのお母さんになった、娘たちの名前と、
貧しい、お隣の名前たちと、
鳩、子犬、うさぎ、ロバ、鹿、
フランシス・ジャム、ライナー・マリア・リルケ、
このような詩人たちの名前を、呼んでみます。

この人たちは、あまりにも遠いところにいます。
星が、はるか遠いように、

母よ、
そしてあなたは、遠い北間島におられます。

わたしは、なにかを懐かしみ、
この数多い星たちの、光を浴びる、丘の上で、
自分の名前を書いてみてから、すぐ
土をかぶせて隠しました。

夜どおし啼いている虫たちは、なんだか
恥ずべきわたしの名前を、嘆いているかのようです。

しかし冬が過ぎて、やがてわたしの星にも、春が訪れれば、
墓土のうえに青々と芝草が生えるように、
わたしの名前が埋もれているこの丘のうえにも、
誇りのように、草が生い茂るでしょう。


尹東柱(ユン・ドンジュ。1917~45)




韓国へはふつう、飛行機ではなく、船で渡航します。
下関か博多から、フェリーで海峡を渡る、約6時間の船旅。
とくに好きなのは、夜間航路です。

凪いだ夜には、甲板に出てみます。
船はすべるように、波間を進みます。
すぐそばには、対馬が寝入り、横たわっているけれど、
釜山の光も、博多の街も見えない・・・海の真ん中から、
真っ直ぐ上に、宇宙が黒々と、星をのみこむありさまには、
真っ逆さまに、金魚鉢の、真底に落ちたような気分です。

m31_subaru_big.jpg


「間島」とは、北朝鮮と国境を接する南満州の地で、
いまでは、中国の朝鮮人自治区となっています。
尹東柱は、間島の地に生まれ、日本の同志社大学に留学中、
韓国語で詩を書いたことを理由に、治安維持法によって検挙され、
終戦を前にして、福岡の刑務所で獄死しました。
生きていれば、もうすぐ100歳。

渡りたくても、渡れなかった海峡。
戻れなかった故郷。二度と、会えなかった母。

なんども行き来した、星満つる、夜の海のまんなかで、
彼のことを、彼の詩を、思い出さないことはありません。

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